ニュースピーク

『1984』という小説のなかに ニュースピーク という架空の言語が出てくる 語彙や思考を制限することで 人から考えることを奪ってしまう オーウェルによれば ニュースピークは 思考の範囲を狭めるように設計されている 単語を削除したり変更したり 単語を別の単語に置き換えたり 品詞に互換性を与えたり 都合のいい単語を作ってしまったりと 文章のレベルでなく単語のレベルで操作される 言葉を痩せさせることによって 思考が痩せていくという設定だ 今の日本で起きているのはまったく逆で 思考が痩せてしまった結果 言葉が痩せてしまっている 紛らわしくて欺瞞的な官僚が用意した言葉は 頭のいい官僚たちが計算して発しているのではなく 思考停止に追い込まれてしまった結果なのではないか 思考が痩せた結果 言葉が痩せてしまった そう考えるとすべて納得がいく 偉そうな人が  ネットでしょうもない言葉ばかりを読んでいると  自分の言葉が痩せていく と言っていたけれど 原因はネットばかりでない 漫画では文字は極限まで省略され アニメやYouTubeで用いられる言葉は耳に優しい単語ばかり 1枚の絵は1000の言葉に勝るというけれど 漫画やアニメやYouTubeのなかの ニュアンスのない直截的な言葉に囲まれていれば 言葉が痩せるのは自然ではないだろうか メールもメッセージも短文が要求されるから  語彙は自然と少なくなる 人と話をしたり 文章を読んだり書いたりしながらの思考は  生活の中から失われる 乏しい言葉を通して見るものだから  社会の問題は見えてこない 言葉が乏しすぎて思考が単純化し  人生の豊かさは失われてゆく  発音の数 語彙の数 文字の数の減少する時代とは 貧困な時代であり  文化が疲弊し精神の凋落する時代である という文章を目にしたけれど シグナル的機能に堕ちた言葉にシンボル的な機能を取り戻して 日常使う言葉を豊かにしてゆくしかない 韓国では詩が流行り  言葉のニュアンスが増している 中国では文章を書くことが社会でうまくやっていくことにつながるから  論理的な表現が広がっている ヨーロッパでは日本人が受験勉強をしている年齢で哲学を学ばされるから  言葉の力を信じることになる それに反して 日本とか北朝鮮とかアメリカとか  ラテンアメリカとかアラブ諸国とかサハラ以南のアフリカとかでは  言葉は痩せていく 言葉が痩せてしまった人たちに 21世紀の繁栄はない そう思うと 今の日本が悲しく映る 考えてみれば アメリカ軍に駐留されたことが悲劇の始まりで 漢字制限 字形の簡略化 仮名遣いの改変などにより 言葉から何かが消えてしまった 今の聞き言葉は コミュニケーションの媒体でしかなく 言葉に込められた心情も 情緒も消え 感じる力も失ってしまったのではないか ニュースピークを押し付けられたのではなく 自発的にニュースピークを獲得してしまった人たち すごいというか 滑稽というか 悲しいというか 複雑な気分になる